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マンディアルグ【大理石】証人のささやかな錬金夢(1)

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オニロスコピーとは

錬金夢とはオニロスコピーと言うらしい。マンディアルグ作で澁澤達彦訳「大理石」の4番目のセクションである「証人のささやかな錬金夢」petite oniroscopie du temoinでは、主人公のフェレオル・ビュックがイタリアの海辺で滞在していた孤独な要塞に似た建物で、夜な夜な見た夢を書き留めておいたという形をとっている。

一般的に夢というものはなぜか目が醒めて現実に戻されるとすぐ忘れてしまう性質のものだ。であるから夏目漱石の夢十夜のように見た夢を詳細に詳しく記録するには、意識が夢と現実の狭間に漂っている間に、すかさずペンと紙で書いておく必要がある。

眠りと覚醒の間

その様はサルバドール・ダリの絵にもあるようにどっちつかずの意識であり、中間状態、チベット仏教のバルドゥに比較することもできると思われる。

フェレオル・ビュックは枕元に常に筆記用具をあてがっておいて、夜中などに目が醒めた時にこれらの夢を記したのだった。

このセクションにはいくつかのシュルレアリスティックな夢が記述されているが、それらは言論の魔術師たるマンディアルグの謎の多い文体によって、なおさら不可思議な内容となっている。

one exemple

その中から一つか二つ、夢を紹介したいと思う。

フェレオル・ビュックが砂浜でギラギラと光る太陽に焼かれながら横たわっている。

彼は体を全く動かすことができない。

幸い目だけは動かせたので周囲の状況を見渡し、なぜこのような硬直状態になってしまったのかと訝るのだった。

彼の体は砂浜に打ち上げられた流木の漂着物のようにすっかり木に変わっていた。

するうち体のあちらこちらに彼はチクチクする感じを覚える。

やがてその感覚は身体中から花の蕾が芽を吹き出すと言う怪現象に変わった。

彼は自分の体が花だらけになった、と思った時に目を覚ました。

チカエ・バルドウとの類似点

この不思議なシュルレアリスティックな夢は非常に興味深く、なんとレビューしたら良いものか私は迷っているところだ。

この体の状態とはチベット仏教でいうところのチカエ・バルドゥに近い。

つまり横たわっている死者はこの夢の主と同じく体を動かすことができない。

夢の内容は臨死体験であるから、木と化した肉体から吹き出した花の芽は死からの復活のようなものであろう。

すなわち骨と肉の体から脱して仏の体へと移行する過程の瞬間である。

ミイラとの類似点

また木になった体が花だらけになったということは、花という祝福を意味する植物によって包まれたことを意味する。

これは手厚く包帯でぐるぐる巻きにされたエジプトのミイラのように、冥界の神であるオシリスの姿を連想させる。

あいにくマンディアルグの小説には原註もなく、作者による解説もない。

読者が自分で解読するしかないのである。

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