ジョン・ミルトン【失楽園】レビュー〜サタンの失墜と人間が楽園に戻るまで(2)

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残された希望

楽園を追われた最初の男女、アダムとイヴは犯した罪によって呪われた大地へさまよい出る。そして人類が彼らから派生するのだが、以後人間は地獄から自在に登って来るルシファーの陣営に晒されながら生きなければならない。

聖書の言い伝えでは後に生まれるキリストが罪を贖う事により、人間は再び救われることが可能になるという。ミルトンの「失楽園」では父なる神の右に座す子つまりキリストが、憐れな人間を救うべく下界に降りる決意を語る場面が描かれている。

キリストは救世主を意味するメシア、世界を創造したとされる言葉を意味するロゴス、神の子などの呼び名がある。サタンは蛇、荒らす憎むべき者、堕天使ルシファーなどの呼び名がある。

堕天使たちの誓い

地獄に蹴落とされた天使たちつまり悪魔は、善を行うことは一切厳禁とし悪を行うことのみを喜びとすると誓う。天国に対する憎しみと人間の命に対する妬みから、一人でも多くの人間を自分たちの側に引き込もうと決意する。映画「コンスタンティン」でもその様は語られている。🔻はアマゾン動画視聴サイトリンク。

コンスタンティン (字幕版)

「コンスタンティン」にもあるように、天使は神の側の使い、悪魔はサタンの側の使いであり、互いに永劫の闘争状態にある。そして天使、悪魔共々人間よりも高次の力を有し、その働きは基本的に目に見えず耳には聞こえない。ちなみに天使が多数登場する映画は少ないが、悪魔が出て来る映画はとても多いのは興味深い。

エデンを守護するケルビムの剣

楽園を守護する智天使ケルビムと回転する炎の剣は、生命の樹に人間が手を伸ばして永遠の生命を得ないように配置された。

なぜならアダムとイヴは知識の樹の実を食べたから、生命の樹の実まで食することによって善悪の知識を持った神になってしまうからだった。

これは詩人ミルトン独自の解釈でも何でもなく、旧約聖書そのままの意味である。言い替えれば善悪を知ることが人間が神になる条件ということである。

「失楽園」においては神になった人間のことを半神(デミ・ゴッド)と呼んでいる。

炎の剣の解除方法

炎の剣を突破できなければ永遠の生命は手に入らない。楽園はすでに誰にでも開放されたものではなくなった。

楽園回帰の鍵となる罪の贖いとか、救いとかは古来より世界中で説かれている。それらの形は変われど、目的は同じなのである。

天使も悪魔も異次元もないとすれば、ただ地球があるだけということになり、SF映画に出て来るような宇宙人を漠然と空想するのが関の山だ。善も悪もなくただ世間体と習慣に従って生きるだけとは、何とも悲しい憐れな人生であり、それこそが悪魔の狙いなのである。

●前の記事はこちら→ジョン・ミルトン【失楽園】レビュー〜サタンの失墜と人間が楽園に戻るまで(1)

ケルビムの剣を解除するヒントはブレイクの「天国と地獄の結婚」に書かれています(プレート14参照)→【ウィリアム・ブレイク】「天国と地獄の結婚」原文解読の試み(2)

☦ダンテ『神曲』はこちら→「地獄篇」まとめ「煉獄篇」まとめ「天国篇」まとめ

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