ボードレール【悪の華】「七人の老爺」は預言者のビジョンか

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突然の出現

シャルル・ボードレールの不朽の詩集『悪の華』の「七人の老爺」<LES SEPT VIEILLARDS>という散文詩風の作品は、主人公の私(ボードレール)が大都会のパリを、疲れ切った自分の魂といつものように議論しながら歩いていると、完全に同じ風情の醜悪で陰険な七人の老爺に立て続けに遭遇するという話である。それらは似ているというレベルではなく、完全なコピーでありクローンに等しい。主人公は一人ずつ出現した老爺の数を数えるが、7人まで数えたときに理性を失い、完全コピーの地獄の行列の行進に背を向ける。そして家に閉じこもり、病気になって発狂しそうになるのである。7人の老爺の行列の意味が理解できず、理不尽さに圧し潰されながら。

険悪な姿

薄汚い霧のかかったパリの市街地から突如出現した老爺の風情は、特徴としてまず腰が直角に折れているという点があった。曲がっているのではないのである。そのため歩行に杖を必要とするのだが、その不器用な歩く姿は不具の4足獣か3本足のユダヤ人のようだったと書かれている。あご髭は長い剣のように飛び出しており、その眼は膿に浸されていながらも鋭く、着物は黄色いボロ布をまとっていた。全世界に対する敵意をむき出しにして、雪と泥を足で掻き分けながら進んできたという。

行列の意味

さてこのような老爺が1、2、3、4、5、6、7人と続いて現れ、行列を形作ったわけである。主人公が恐れたのはこの行列が永遠に続くのではないか、という点であった。永遠に続くのかどうかはともかくとして、この詩人のビジョンは21世紀の歩きスマホの行列の予知だったのではないだろうかと思われる。この詩が書かれた時代から見れば現代のパソコンやテレビ、携帯電話やスマートフォン文明は幻想に近い。実際私達が目にする見慣れた光景と一致する点として以下の3つがある。

「腰が直角」頭部がスマホの画面に釘付けになっており、世界を支配せよというホモ・サピエンスとして機能を果たさなくなっている。

「スマホが杖」スマホの画面を見たり操作をしながら歩行するため、駅の線路に落ちたり交通事故に遭ったりする。

「10人10色」人混みの中とくに市街地や電車内はスマホをいじる人がほとんどである。

預言者

「預言者」という種族が古代から存在する。人々が眼にすることのできない幻覚や未来に起こる出来事を予見し、それらを伝える特殊能力を持った人。聖書のエリヤやヨハネ、ノストラダムス、ウィリアム・ブレイクなどがそうだ。150年以上も前に書かれたこの作品が予言だとしたら、残念なことに誠に的を得てしまっている。

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